第2章 足並みの乱れ
それを破ったのは、
翔のどこかせっぱ詰まったような
それでいて、意志のこもった声だった。
「ウソ……つかないといけないのかなぁ~」
「え……?」
信じ難い目で、智は翔を見た。
「俺は…」
と、口を開く翔の顔には
何故か揺るがぬ決意がみなぎっていた。
引き締まった眉。
まっすぐに心を射抜くような瞳
智が大好きな顔がそこにあった。
思わず痴話喧嘩の最中なのも忘れて
ぼーっと見惚れてしまった智の耳に
飛び込んできたのは、
とんでもないセリフだった。
「俺は、大学を卒業したら、
家族に言うつもりなんだ。
俺には男の恋人がいるって…」
瞬間、言葉よりも先に手が出でしまった。
パシーーーーンと部屋に響き渡った音よりも
右手の痛みで、自分が翔の頬を
打ってしまったことに気がついた。
「な…何をふざけたこと言ってるんだ!!!!」
怒りからか、驚きからか、
声が情けないほど震えていた。
ドクドクと、心臓が不快な音を立てている。
「か…家族に言うだって…
そんなことしたらお前自身が
どう思われるかわかるか?」
「どうって…」
「ふふ…頭がおかしくなったと
思われるんだよ!!」
「…でも、俺は真剣に伝える…
ふざけてなんかいないって……。
友達や……他の連中なんか
どうでもいいんだ……………。
でも……………、
家族だけには隠し事はしたくないんだよ。」
「……………それは、ウソをつきたくないほど
家族が大事だってことだよね。」
「ちゃんと話せば、
きっとわかってくれるはず……………」
「フフフ……お前の家族は神なのか?
仏なのか?
健全な一家が、同性愛なんて
想像さえもできないだろう。
そんな両親が、おめでとうって
喜んでくれると思うか?」
身を乗り出して、翔に掴みかかる。