第2章 足並みの乱れ
さらに、可愛い末っ子を溺愛する
大野の家族達は、智の素行など
すっかり調べ上げていた。
親族総出で、智の奔放な生き方を
見て見ぬふりをするどころか、
妙なウワサが立つたびに揉み消していた。
そうやって、知らない間に大事に大事に
守られて、智はゲイライフを
謳歌していたわけだった。
なのに、過去の恋は思い出すのさえ
虚しいーー‥。
付き合っている間は楽しかった。
『女よりお前の方が可愛いよ』
と誰もが言ってくれた。
愛されてると思っていた。
もしかしたら、このままずっと一緒に
いられるかもしれないと、夢見たこともあった。
なのに……
脳裏に刻まれているのは、
別れ際の男達の困り果てたような顔だった。
逃げたがってるんだ……
俺のことなんか忘れたがっているんだよね……
すべてをなかったことにしたいんだよね。
周囲の目なんか気にすることもなく
自由気ままに好き放題やっていた頃の恋でさえ、
結末はすべてそうだった。
「翔…『実は!ゲイなんで~す!』
なんて言えるのは学生時代だけなんだよ。
俺は幾つになったと思ってるの?」
智は、まだ誕生日は迎えてはいないが
今年25歳になってしまう。
その上教師という職業を考えれば
教え子を誘惑することで始まった翔との恋は、
あまり外聞が悪すぎて、以前ほど身内の
賛同も得られないだろう。
それこそ、世間は容赦など
してくれるはずがない。
「翔…もう俺はいい大人なんだ。
世間体ってもんがあるんだよ。」
「でも、二人ならやっていけるはずだろ。
カズさんと潤さんだって、
いっしょに暮して上手に
やっているじゃないか……」
「あの二人は、俺達とは根本的に違う…」
和也と潤が結ばれるまでの
経緯はあまりに違いすぎた。