第1章 新たな始まり
智と翔は完成するまで、
この美術準備室に通って来るという
言い訳をしていた。
翔は約束厳守を旨とする
スポーツマンだから
口から発せられれば
否応なしに説得力となってしまう。
智は学ランを着て、
ここへモデルをしに来てくれることを、
認めざるえないのだ。
「もういいよ。
あとは仕上げだけだし…」
と智は、準備室の隅に置いてある
カンバスに目を向ける。
「へぇ~。でも、先生はこの方が
嬉しいんでしょう?」
「にゃ…にゃにぃ~」
「好きなんだろう、先生…
俺の制服姿……」
「------・・!?」
なっ・・なななななな何を
自惚れてるんだ、こいつ~?
好きだって…
好きだって…………
好きだってぇぇぇぇ~!?
「あれ?違った?」
自信満々言い切る男に
向き直り、智は思いっきり
叫んでやった。
「ああ、好きだよ!大好きだよ!
何が悪いんだよ。
お前ほど制服の似合う男はいないと
思うよー!!!」
悔しい…けど…………。
あったまくるけどさ……。
見慣れてるはずなのに
実は毎日、見惚れてしまうのだ。
くっきりとした二重の顔、
スラリと通った鼻筋…
健康的な肌の色…………
本当に制服が似合いすぎる。
そんな智のドキドキ気分は
うっすら染まった頬に否応なしに
現れてしまう。
「悪くはないよ。
先生が喜んでくれるのなら…
って思って着て来てるんだから。」
ヌケヌケと言うと
翔は目を細めて微笑んだ。
(こ…こいつぅ~。
その顔は狡いぞぉ~~)
以前は、もっと仏頂面だった。
こんな顔はめったに
見せなかったのに……。
ゴール・キーパーに表情を
読まれないように、無愛想の仮面を
被っていたくせに…。