第2章 足並みの乱れ
智の背後には、経済界の大物である
相葉雅紀の父親がついている。
うっかり手を出せば、
マジで簀巻きにされて
駿河湾深く深海にでも
沈めらかねない。
一介の、たかが声だけデカイ
熱血風教師がどうこうできる
相手ではないのだ。
もちろん、そんなことは、誰よりも
智が一番よく知っている。
文化祭の企画でもあるまいし、
自分に向かって『好き』なんて
告白をしていい人間は、
翔しかいない。
武井壮は端からお呼びじゃない。
智は、食事を放棄して立ち上がった。
「俺のどこが尊敬できる教師なの!?」
朝礼はギリギリで来る。
職員会議では寝てばかり。
授業を自習にして、
居眠りするなんて
日常茶飯事だ。
こんなサイテーな教師は
そうそういないだろう。
「だって……、先生は、生徒に
慕われているじゃないですか?」
「俺が慕われてる?
それは教師だからじゃないよ
この顔だからだろー。」
智は再び口の端を歪め、
最高な笑顔を武井に残して
さっさとその場を後にした。
残された武井は、ボケラ~っと
可愛い妖精のような笑顔を
思い返しながら
(お…大野先生が、
俺に笑いかけてくれた~♡)
と、とんでもない誤解をしていた。
武井壮は、あの微笑みの裏にある
侮蔑の感情に気づかないでいた。