第11章 最後の虚言
「あっそうだ!修から、智に伝言……。」
「俺に?」
「兄貴をよろしくお願いします。って…
それから、恵が去年結婚して、
もうすぐ子供が産まれるから、
ウチの両親もしばらくは孫に夢中に
なると思う……。
だから、兄貴のことなんか考えている
ヒマはないだろうってさ……。」
「どうせなら……恵ちゃん11人ぐらい
子供作ってくれないかなぁ~」
「いいねぇ~。サッカーチームが
作れるじゃん。」
と、笑う翔の顔に後悔の色はなかった。
それでも、智は不安からか
念を押すようにきいてしまう。
「翔……ホントに、これでいいだよなぁ……?」
「当たり前だよ!!イイに決まってるだろ!!」
当然のように言い切って、
翔は懐かしの学舎を眩し気に見上げた。
もう子供じゃないんだ。
覚悟を決めた一人の男として
自信に溢れた顔をしていた。
「やっと…やっとここに戻って来れた……。」
そう呟いて、視線を智に戻す。
「…ただいま………………」
「おかえり……。」
翔は微笑むと
「白衣の汚れも……
あの時のままみたいだね。」
「翔は学生服が似合う、妙に目つきが悪い
高校生だった。
なのに俺は、いけないことばかり教えた……」
「これからだって、もっと、も~~っと
いけないことを教えてくださいよ、
大野せ・ん・せ・い。」
ひっそりと耳元で囁かれて
智はポッと頬を染める。
もう教えることなんか何もない……。
溶かされて、乱されて、泣かされて……
日々翔の色に染められていくのは
智の方だった。