第11章 最後の虚言
ーーーー季節は淡々と移っていくーーーー
あの激動の夏の出来事に学び
智と翔は穏やかな生活のために
周囲を欺き通す道を選んだのだ。
翔が大学を卒業して独り立ちするまで……
自分の稼ぎで生活できるようになるまで
そう、扶養家族でなくなる日まで
建前上は智と翔は別れたと事にして
その裏でコッソリと逢瀬を重ねていた。
それが翔の選んだ道。
夢よりも、家族よりも、友人よりも……
恋人を選んだ男の決断。
そうして今日、ようやく翔は大人として
就職先に第一歩を踏み出したのだ。
「翔……、ちゃんとやれるかなぁ~」
舞い散る桜の花弁の中で
智は遠い空を見上げながら誰にともなく
呟いた。
相変わらず五十嵐の美術教師を続けて
いる智にとっても、今日は就任して5度目の
入学式なのだ。
すっかり板についた美術教師の顔で
真新しい制服に身を包んだ新入生達を
正門から講堂へと誘導係をしている。
なのに、記念すべき日だというのに
いつもの薄汚れた白衣姿だったりする。
「先生ーーっ!!」
今年、担任することになったクラスの生徒達が
5~6人、ドッと智を取り囲んだ。
「何だよ~大野せんせー……、
今日ぐらいはビシッとしたスーツ着て、
おしゃれしてこいよー」
「ふふ…これでいいんだよ。
この格好が一番落ち着くんだから……
それに……堅苦しい服を着ると肩コリするから
イヤなんだよ……」
「先生、おじいちゃんみたいなこと
言ってんなよ~……」