第11章 最後の虚言
それでいい。
胸が痛いのは、苦しいからだ…
涙が出るのは……
哀しい証拠なのだ。
そう、これは感情が戻ってきたんだ…
ようやく、色あせた世界から抜け出すチャンスが
来たのかもしれない。
だから、すべて翔にぶつけてしまおう。
きっと彼はそのぐらいの覚悟はある男だから…
臆病者って罵られて……
だからお前はヘタレなんだよ!!と、
罵倒されて……
最後には………
ノンケイなんてこっちからゴメンだって
怒鳴り飛ばして、
何もかも全部ぶつけてから……
後は空っぽになるまで泣いて…
泣いて…カズの膝の上で泣いて……
涙の一滴も出なくなったら
きっといつもの大野智に戻れるはずなんだ。
頑固者だけど、恋を求めて生きる大野智に……
今度こそきっと、戻るんだーーー。
「……しょうがないよ。
反対されたって当然なんだ。
俺は、お前の将来をも奪いかねない大けがを
負わせてしまったんだから……」
「智…アナタのせいだなんて思ってなんかない。
それに、俺を突き飛ばした武井を恨む気もない。
誰から責任を押しつけても、
俺の足は元にもどることはないんだから……」
「でも、お袋さんは、許さないって
言ってるんだろう?」
「言うのはケガのことだけだよ。
智のせいでこんな目にあったんだから
もう、拘わらないでって言うけど……
智との関係は口にさえしなかった。」
「え……?」
「お袋も親父も、目を背けたんだ。
この一ヶ月、何度も説得しようとしたけど……
そのたびに冗談ばかり言うなって……
完全になかったことにされた……。」
「そうだったんだ……」
翔の辛い告白に、智はひっそりと微笑んでいた。