第11章 最後の虚言
他人の声なんて雑音だと思っていた。
でも、その声は、ひどくハッキリと鼓膜を
揺らす。
自分の心を震わせた声……。
聞きたくて堪らなかった声だった。
意識がそっちに向かってしまう。
幻聴かもしれないのに……
無視なんかできるはずがなかった。
だってそれは愛する翔の声そのもの
だったから……。
「…………誰……?」
「俺だよ……」
ようやく開けた瞼の向こう側に
ボンヤリと見えたのは自分のマンションの部屋。
その中央に、決して見間違えることのない男が
微笑んでいた。
眠りから覚めたはずなのに……
自分はまだ夢をみているのだうか?
それでもいい。
目覚めても、目覚めても
エンドレスに夢の中にいられるのなら
そんな幸せなことはない……。
こんな幸せなら何度起こされてもかまわないし
死ぬことも悪いことじゃないのかも……。
「俺がわかる?」
「……翔……?」
「よかった、忘れられたら、どしようかと
思ったよ」
「…わ、忘れる…は、ず…ない…」
両手を差し伸べて、幻覚の男に触れる。
手のひらに
確かに感じる翔の温もり……
「本物……?」
「他の何さ?」
伸びてきた翔の手が智の髪に触れる。
(俺……まだ、生きてるんだ………………。)
寝乱れた髪を優しくとかすと
そのまま頬に手を滑らせて
自らの感触を思い出させるように撫でたり
さすったりする。
「…………ホントに翔なの……」
せっかく焦点が合ってきたのに、
溢れてくる涙でよけいに姿がぼやけていく。
抱きつきたいのに、起き上がる力もなく
切なげに翔を見上げてしまう。
それに気がついたのか?
翔は自ら身をかがめると、
一回り細くなってしまった智に
気遣いながらそっと抱き締めた。