第11章 最後の虚言
自分は死んだのか……
とてもステキな夢を見ているのか……
このままうっとりと浸っていたいほど
ステキな夢だった……
最後の夢にしては贅沢で幸せな夢だった。
二度と逢えないと思っていたのに
諦めるしかないと思っていたのに……
その男が自分を抱き締めてくれた。
幻だったのだろう。
期待ばかりしていたから見間違えたに違いない。
だけど、逞しい腕の感触さえ心地よく感じた。
このまま愛する男の夢の中で永遠に
いられるのなら…
目覚めなくてもかまわない。
翔のいない日々に
もう何の魅力も感じない……
カズごめんね。
俺これ以上堪えられなくなっちゃった……。
毎日、毎日少しずつ心が死んでいく……
感情が、一つ、また一つと消えていく。
だからもう、何を見ても、誰を見ても
何も感じない……。
きれいなものも、優しいものも
温かいものも、切ないものも……。
自分の周りを彩っていたあらゆるものが
ただそこに存在するってだけの物体に
成り果ててしまった。
だからもうどうでもいい……。
色あせてしまった世界には
何の未練もないから……。
もうずっと、この心地いい夢の中で
眠っていよう。
ただ、ひたすら愛する翔のことだけを
思ってーー…。
「…………智………………。」
なのに………………
どこかで夢を遮る声が聞こえるような気がする…
無理矢理起こそうと
何度も……
何度も肩を揺らされる。
「智……大丈夫……?
目を開けてよ……」
もう他人の声なんか聞きたくないのに……
どこかで、心地よい声がする………………。