第10章 落魄
恋をしている時は喜びに満たされ
失恋した時は悲しみに打ちひしがれ……
プラスにしてもマイナスにしても
感情の赴くまま生きる事こそが
彼の生きる証なのだ。
なのに今の自分はどうなんだろう?
翔との別れを決めた日から
プッツリと糸の切れてしまった
マリオネットのようになってしまった。
こんな空っぽの自分は知らない。
悲しいってなんだっけ?
可笑しいってどんな感情?
悔しいってどうやって感じるの?
変なのか?
何も感じないから……
すべてがわからなくなってしまった。
でも、そんなことさえもうどうでもいい。
心から愛してしまった相手を……
翔を失うってことは、こういうことなのだと
初めて解った。
ともかく今日という日は、なんとか無事に
終えることができたのだと思う。
たぶん明日も同じようにやり過ごすのだと…
明後日も、一週間後も……
一ヶ月後、一年後も?……
「大野先生ーっ!!!!!
危ないーーーーー!!!!!!」
どこからか聞こえてきた声に
智はゆっくりと振り返った。
グラウンドでは野球部が練習をしていた。
誰かが打ちそこねたボールが
自分に向かってくるのが見えた。
よけないと………………
ぶつかるかもしれない。
「先生ーーー!!!!!
よけろってばーーーっ!!!!!」
「ああっーーーーーーー!!!!!!!!!」
生徒達の驚愕の声が響き渡る。