第10章 落魄
どこかで自分の身を案じる声が
聞こえるようなきがした。
でも、よける必要がどこにあるのだろう?
ちっとも大事じゃない身体を
庇う必要があるのか?
もういいんじゃないか?
あのボールが自分を殴りつけてくれれば
翔のいない世界から抜け出せるのかも……
そんなことを考えながら、ボーーッと見ていた。
「危ないーーー!!!!!!!!!!」
(何だろう……?
もう痛みも感じなくなったんだー………。)
智には、何がおこったのかよくわからなかった。
そう、一瞬あたりに沈黙が広がり
視野が何かで遮られたからだ。
智の目の前30㎝のところで
誰かの手が野球の硬球を素手でつかんでいた。
大きな手だなぁ……
まくし上げたシャツの袖から覗く逞しい腕……。
見覚えがあった。
そうだ……
忘れる事なんかできない。
一番大事な男の手……。
そのまま視線を巡らす
二の腕から肩へ、首へ……
そして…………
そこにはね逢いたくて、逢いたくて
逢いたくて堪らなかった男の瞳があった。
「……翔………………?」
ついに幻覚が見えるようになったんだ……
と、智は思う。
「智」
と、幻覚は微笑む。
「ホント危ないんだよ、智は。
いつもボーッして起きてるのか寝てるの
判らないんだから……」
すごい!幻聴まで聞こえる……!!
「翔…………!!!」
手を伸ばし、夢中でその首に抱きついた。
逞しいけど残念なぐらいのなで肩……
何もかもが愛する男のものだった。
「すごい……感触まであるんだ……!!」