第10章 落魄
ホントはこんなところで油を売ってる
暇はなかった。
大事な商談に向かうと途中だったのだ。
「おい、翔!!
今夜もまだカズの感度が鈍いようなら……
明日はバットでも持って制裁に来るからな!!」
最後に止めの脅しをしっかりかけて
腕時計に目を落とすと足早に去って行った。
「俺……あの人嫌いじゃないなぁ~」
人間としては難はあるのかも知れないけど……
あそこまで徹底して大野和也という男しか
目に入らないくせに、
優先するのは和也の幸福ではなく
自分の欲望なのだ。
和也以外何の興味もない。
和也を独占し、所有し、
自分の為だけに抱き喘がせる。
そのためだったら、友の復讐を理由に
縛りつけることも、いとわない。
たとえ一時の、贖罪からの苦しみでも
それを上回る最大の愛で和也を満たし
溺れさせてやれると、まったく根拠のない自信を持っているのだ、この男は……。
翔は、ある意味この男こそ自分の恋愛において
師匠だと思い、尊敬の念を抱いてしまうのだ。