第10章 落魄
「でも、考えたことはないんですか?
カズさんがアナタに抱かれるのは、
親友の両親を死なせてしまった事への
罪滅ぼしの為だからって……」
「もちろん!考えた。
最初は、それじゃカズは心から俺を愛して
くれないんじゃないかって……、
確かに悩んだこともある。
でも、俺とあいつじゃ身分も立場も違いすぎる。
だから、それを逆手に取ってカズを手に入れる
ことを考えた。」
ニヤと笑うと、潤は自らの手の内を
自慢げに話す。
「男同士の場合、受け身に回る方はどうしたって
自尊心を踏みにじられる。
躰は俺を受け入れたいと望んでも
それを愛や快感のせいにするには
あの人はプライドが高くて天邪鬼だから……
それを贖罪という大義名分をやったんだよ。」
「大義名分……?」
「つまり、罪の意識を強く感じているカズは
自分へのケジメとして親のしたことを
償うために俺に抱かれてるって思い込む方が
気持ち的に楽だったってことだよ。」
「それって卑怯だと思わなかった?」
「卑怯の何が悪いんだよ。
清廉潔白なスポーツマンの翔には、
そんな駆け引き気に入らないかもしれないけど
その人によって、負い目かあるからこそ
素直になれるってこともあるんだよ。」
「俺ってそんなに真正面から勝負を挑むような
男に見えますか?」
「ああ。俺からしたら苦労の知らない
おキレイなヤツにみえるけど……。」
「だってそうだろ……じゃなかったら
今だって一生懸命にリハビリなんかしないだろ?
きっとお前はすぐにでもグラウンドに
戻れるだろう。
その根性があけばなぁ~」
「………………」
「俺には、とてもそんな根性ないなぁ~
カズの為以外には、指先一本動かすのも
ごめんだね」
その言葉にウソはないだろう。
たぶん、和也との充実した夜を取り戻すため
だけにこの男は、わざわざここまで
足を運んできたのだろう。
潤は言いたい事だけ言うとさっさと
グランドの出口へ歩き出す。