第10章 落魄
「そうだよ。俺は私利私欲でしか動かない。
カズにしか興味がない……
あいつが人生のすべてなんだ。
だから、お前みたいに、夢も叶えます。
家族にも心配かけません。
智さんも幸せにしてみせますなんて
甘ちょろい戯言ばかり言って
最終的には全部中途半端になるようなことは、
絶対にしない。」
翔にとって一番痛い所を
遠慮なく突いてくる。
確かに、夢も、家族も、友人も大事なんだろう。
だからこそ、男としてのケジメとして
一番優先すべきものをちゃんと見極めないと
いけないんだ……
でも、それは何だ……
「……全部は無理なのか……」
「思い上がりだなぁ……」
と潤は吐き捨てる。
10歳の時に両親を亡くし
人生において唯一愛した相手を手に入れる為に
すべてを捨てて、和也の愛を勝ち取った
潤に、翔が反論する言葉などあるはずも
なかった。
「一つだけ訊いてもいい?」
「何?」
「こんな事、訊いていいかわからないけど…
以前智が教えてくれたんだけど……
潤さんの両親が亡くなって、
親類をたらい回しにされて一番辛い時期に
励まして支えてくれた腹心の友の話………」
「遠慮しなくてもいい。斗真の事だろ?
「あいつの親父の会社は『大野株式会社』
の傘下だった。
経済が不安定になって、親会社から
突然切り捨てられて倒産した。
そのせいで、あいつの両親は心中したんだ。
すべて、和也の親父のせいで
幸せな家庭はなくなり、
俺も斗真も不幸のどん底に落ちた……。」
言い淀むことなく、潤は親友の過去を
淡々と語る。
「それって、潤さんにとってカズさんは
友人の両親を貶めた……
強いて言えば、仇の息子になるわけだよね。」
「そうだなぁ…でも、仇同士、禁断の恋……。
男なら燃えるだろ?
ロミオとジュリエットの世界だからなぁー」
それはもう過去の事……。
過ぎてしまったことよりも、
代わりに手に入れたものの価値に比べたら、
拘る必要もない……