第10章 落魄
「翔は、何も言わずに黙って実行することが、
美徳だと思うか?」
「………………」
「それは違うと俺は思う。
時には言葉だって必要なんだ。
特に、すぐにネガティブな事ばかり考えてしまう
自虐的な相手には、
どれだけ言葉を捧げたって足りないと思う。」
「智は、自虐的と言うか……
自分の考えや信念を曲げることが嫌いな
頑固者なんだよ。」
「確かに……でも、その頑固オヤジが
今どんな状況になってるか、知ってるか?」
「……えっ?…どんなって……?」
「翔の足が治る頃には、智さんはぶっ倒れて
最悪、死んでるかもなぁ~……」
「まさかーーー…?」
「ふふ…信じられないか?だったら自分の目で確かめて来るんだなぁ~……
今すぐに行ってこい!!」
鈍すぎる翔にイライラしていた。
「俺は親切心で言ってるんじゃない!!
正直、智さんが倒れようが…
お前と別れようかどうでもいいんだ。
だけどなぁ、本当にやっかいなことに
智さんの落ち込むとモロにカズと
シンクロする。
双子でもないくせに…
迷惑極まりない兄弟なんだよ。
おかげて、愛の交歓に身が入らない。
俺が仕事をして疲れて帰ってきて、
カズを抱くことを、どれだけ楽しみに
生きているかお前に解るか?」
「…………」
「解って堪るか!!
いいか!!もう、これ以上は邪魔されるのは
我慢できないだよ!!!!!!」
「………………」
翔は、しばし唖然と潤を見つめていたが
やがて、小さく吹き出した。
「何がおかしいんだよ。」
「あ…、いや、すいません。
ただ、最近このケガを負ってから、薄っぺらい
慰めの言葉ばかり聞いてたもんだら…………
そこまで、自分の私利私欲な言い草されると
かえってスカッとするなぁと思って……」