第9章 夢浮橋
「翔は………紹介できなかったんだよ…
こんな野郎だったから………………」
「こんな野郎って…
俺はそんな感じはしませんでしたけど…
まぁ…、驚くなって方が無理ですよね。」
「…そりゃそうだよね…」
「ハッキリ言っていいですか?
俺には同性を好きになる気持ちは
理解できません。
大野先生は、確かに男でも可愛い人だと
思いますが…
それでも恋愛対象と言われれば、
冗談だろうって気にはなります」
痛いことを言われているのに
不快には感じなかった。
たぶん、正直な物言いのせいだろう。
この弟は、息子を愛しているが故に
闇雲な子育てをしてしまっている母親とは、
ちょっと違う気がした。
「ただ……、翔はいいかげんな
男じゃないんです。
我が兄ながらあまりにもできすぎてて
時々、この後に続く弟の気持ちも
考えてくれよ~って、
恨んだこともあるぐらいなんです。」
一番身近にいる男同士として
兄弟というより、ある意味、
ライバルのように見えてきたのかもしれない。
兄の変化を、誰よりも身近に感じていたのは
この弟なのだ。
「だから、翔がアナタを恋人だっていうなら
それは兄貴が選んだことですよね。」
修は、智をしっかり視線を定めると
キッパリとそう言い切った。
「……俺達の関係を信じてくれるのか?」
「はい……。でも、それと認めるのは
別問題ですけどね。
ウチは、知ってると思いますが
スポーツ一家で、思考が健全すぎるほど
健全なんです。」
「知ってるよ」
「俺や姉貴はともかく、両親は、
翔が同性愛者なんて絶対に信じられない……
っていうか、考えることすらできないと
思うんです。」
「まぁ…それが普通だと思う……」