第9章 夢浮橋
きっと、もう二度と翔の前に顔を
出せなくなってしまう……。
くじけそうになる心を叱咤し、
智は重い口を開いた。
「僕は………………
息子さんと付き合っています………………。」
瞬間、弾かれたように母親が顔を上げた。
「……え……?」
「教師と生徒としてじゃありません。
恋人として真剣にお付き合いをしています。」
「…………なっ……?」
「僕は、翔を愛しています。」
母親も、修も、意味がわからないと言うように
唖然と智を見つめている。
「何を……言ってるのーーー……?」
智の告白にまで追い込んでおきながら
何か妙な関係だと感じながら、
いざその真実を聞いてしまうと
認めることを拒否してしまう……。
常識的な人間なら
ありがちな反応だと思う。
「な…何、わけのわからないこと………」
「だから……、恋人なんです。
僕と翔は………………。」
母親は、もう聞きたくないとばかりに耳を覆う。
「修……、こ、この人、何を言ってるの?
妙なこと…言って……どうかしてるわ」
と、背後の息子に問いかける。
「母さん……」
「変よ……! 絶対、おっおかしいわよ、
この人ーー」
まるでバケモノでも見るように
嫌悪に顔を歪ませて、智から視線を逸らす。
「帰って……。
あなたみたいな変な人に、
息子のそばにいて欲しくないわ!!!!」
「でも………。翔は僕のせいで……」
「帰ってよぉーーー!!!!!!
誰か、この人をつまみ出してぇぇぇぇーー!!!!!!!」
叫びながら次男にしがみつく母親を
見てしまっては、もう、この場に
居続けることなんてできない。
「本当に申し訳ありませんでした……。」
深々と頭を下げてそれだけ言うと
智は逃げるようにその場を後にした。