第9章 夢浮橋
病院に運ばれた時に、すぐに雅紀が秘書に命じて
翔の実家に連絡をさせたのだ。
(ああ……、ついにこの時がきたのか……)
翔の家族との顔合わせは、
恋人として付き合っていく以上、
避けては通れないとはわかっていたが……
まさかこんな最悪な形での対面に
なってしまうとは……。
智は、覚悟を決めて、二人の前に歩み出る。
「翔君のお母さんですか?
僕は、大野と言います。
五十嵐学園で美術教師をしている…………」
「大野先生……?五十嵐学園の美術の先生…?」
母親の顔に、一瞬、嫌悪とも驚愕ともつかなぬ
表情が浮かんだ。
五十嵐の卒業式に、翔がかかえてさらった
男だと気がついたのだ。
「いったい翔に何があったんですか?
足をケガしたって……聞きました。
でも……、どういうことなんです…?」
「容態はわかりません。まだ手術中なんで……」
「足……、あの子の足は?
サッカーはできるんですか?」
「すいません……。僕にはわかりません。
でも、かなり痛めたことは確かです。」
「そんな……!!」
と、翔の母親は顔を引きつらせる。
「どうして?どうしてそんなことにーーー…!?」
「僕を庇って……」
「あなたを……?」
呟いた母親の表情が、見る間に般若のそれに
変わっていく。
突然、智の胸ぐらにしがみつき
金切り声を上げた。
「い……いったい、あなたは何なのっ?
どうして、あなたを庇って、ウチの息子が
こんな目に遭わなきゃならないの?
普通は逆でしょう……
あなたは教師で翔は生徒だったのよ。
あなたが教え子を庇うのが筋でしよう!!!!」
子供を思う母の怒りが
智の心に突き刺さる。
あまりに当たの前ことすぎて、言い訳すらない。