第8章 魅惑な美
男として明らかに劣っていると
否応なく突きつけられた真実への
それが最後の見栄だったのかもしれない。
「翔っーーーーーー…!?」
叫んだ智の目に、翔と武井の身体が
もつれるように吹き飛んでいくのが、
まるでスローモーションのように見えた。
ガッシャァァァァァァーーーーーン
耳につよく裂き破るような爆裂音とともに
二人の身体は背後のサッシ戸を突き破って
飛び出していった。
勢いあまった巨体は、
そのままベランダに並べられた
プランターや鉢をなぎ倒すと、
鉄柵にぶつかってようやく止まった。
「し…翔ーーー!?」
智はガラスが散乱しているのもかまわず
ベランダに向かって駆け出した。
「ひいっ! い…ぃてぇ~!!!」
割れたガラスで無数の切り傷を負った武井は
翔の身体に馬乗りになったまま
情けなく叫んでいた。
「お前っどけぇぇぇぇぇぇぇーーっ!!!!!!!」
その肩を捕まえて、
火事場のバカ力でもって
翔から引き離す。
ガラスや植木鉢の破片か散乱する中
武井の体重をモロに受けた翔は、
狭いベランダの中で受け身を取る余裕も
なかったか、グッタリとしている。
「翔…翔、大丈夫か?」
智の叫び声にもわずかに目を開けた翔だったが
すぐに顔を大きく歪ませた。
「……くうっ………」
と、押し殺したような呻き声を上げる。
「ど……どうした?
どこを打ったんだ……?」
慌てて抱き起そうと身体を触ったとたん、
背後から雅紀の一喝する声が響いた。
「動かしちゃダメ!!!!!」
ビクと、智の手が止まった。
「救急車を呼べ!
それから、止血の用意だ!!!!」