第8章 魅惑な美
そのままデスクに向かって突進していくと
プリンターを両手で高々と持ち上げた。
「バカにするなぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」
教師としての立場など
もうすっかり頭から抜け落ちている。
ただの恋に狂ったバカな男だ。
武井は智を一目見た時から、虜になっていた。
ある意味武井は、智のことを超越した
存在だと思い、無条件に敬う気持ちを持って
見つめていた。
それが、もう手の届かない高い所へ
行ってしまった……。
どうあがいても二度と手に入らないのだ。
さっさと押し倒してしまえばよかったのに……。
あれほど無防備な姿をさらされたにも拘らず
あまりの気高さと色気を前に
思わず怯んでしまった……。
『本当に抱いていいものか……』と、
臆してしまった。
それほどまでに、智は美しく可愛いすぎた……。
なのに、それを翔は畏れもなく
やってのけてしまう。
囚われることへの恐怖も知らず
失うことの不安も持たず……。
自分は選ばれた者という自信を全身から
溢れさせてーーー!
(許せるかっーーー…!!)
他の誰より翔が許せない!!!
自分に、これほどまでに惨めな思いを
味わわせた男に一矢報いなければ気がすまない。
「お前の…お前のせいだぁぁぁぁーー!!!!」
ほとんど逆ギレ状態に陥った武井は
翔と智に向かってプリンターを投げつけた。
「危ないっーー!!」
とっさに翔は智を突き飛ばした。
そのままバランスを崩して床に尻餅をついた
智と翔を引き裂くように、
目標を失ったプリンターはガゴンと鈍い音を
立てて床に転がった。
翔が隙をみせたその瞬間を
武井は見逃さなかった……。
「うわぁぁぁぁぁーーーーっ!」
嫉妬とも憎悪ともつかない雄叫びを上げながら
武井は翔に向かって突進していった。