第8章 魅惑な美
その命令口調とも思える言葉なのに
智の顔は今にも泣き出しさうだった。
「ごめんね……智…」
一言謝ると、翔は智をベットから起こして
しっかりと抱き締めた。
ああ……翔の腕だ!
ずっと、ずっと、待っていた翔の腕だーーー!!!
「ひっ……く……」
愛おしい男の腕の中で
智は肩を震わせてしゃくり上げた。
「ゴメン…。
ホントに遅くなってごめんなさい。」
「ご…ゴメンじゃすまないよぉぉぉ…!!
翔なんか…翔なんか………………」
この期におよんでもやっぱり頑固な智の腕は
もう二度と放さないと言わんばかりに
しっかりと翔の背に回されていた。
「もー翔先輩のせいじゃないよ……。」
突然、部屋に響いた声で、
智はようやく雅紀がいたことに気がついた。
オーストラリアからのフライトの後、
飛行場から大野の家に直行し…
さらにここまで休みもなく車に
揺られ続けていたせいで、
さすがに疲れたような顔をしていた。
その背後には、さらにドップリと脱力した
秘書が控えていた。
相葉の決して言えない裏の仕事を
一手に引き受けるプロが、
智の靴に仕掛けておいた発信器の信号を
頼りにここまで駆けつけたのだ。
さらに、以前榎本さんに弟子入りして
習得した鍵開けの技術を使い、
カギを開けている間も
生きた心地はしなかった。
そして、今抱き合っている翔と智を見て
誰よりも胸をなで下ろしているのは彼だろう。
また、誰よりもガッカリしているのは
床にへたり込んでいる武井だった。
「あ…相葉、お前っ、生徒会長だろう!
何だこれは?不法侵入だっ!!!!!」
ようやく状況を悟ったのか、
今さらながらわめき出すチンケな男。
そんな脅しが、雅紀には通じるはずもない。