第8章 魅惑な美
「ハハハ………。そうですね。
大野先生は、美術に興味を持たせる理由で
この学校に引き抜かれたって聞きました…。」
「まぁなぁ~………。」
曖昧に返事をしている智の視線は、
長い時間、先ほどのプリントに注がれていた。
「なるほどね……………」
何事か納得したようにポツリと呟くと
突然興味がなくなってしまったように
プリントをテーブルの上に放り投げた。
「ねぇ……武井先生。
俺と本気でしたい?」
まるで誘いかけるように智は言いながら
振り返る。
その顔は、友達相手に話していた
さっきまでの智ではなかった。
「一度ぐらいなら、
抱かせてあげてもいいよ……。」
「………ホントですか………?」
瞬間、武井は息を呑んだ。
「武井先生みたいな男の人じゃ…
浮気にもならないと思うけど………。
今はヤケだし、俺をほっておいた翔に
少々お仕置きしてやりたい気分でも
あるから…。」
「俺は当て馬ですか?」
「ふふ…当て馬にもならないかも
知れないけど………
まぁ…今の武井先生はそのぐらいの
価値ってことかなぁ~」
「大野先生………
あまりバカにしないでくださいね。
俺、けっこういいモノ持ってますよ」
瞬間、智は珍しくあはは~っと声高く笑った。
「武井先生………いい事を教えてあげる。
俺を狂わせるのは、モノじゃないんだ…
中身なんだよ。」
ふわふわの髪に指を絡め
ゆっくりと掻き上げる。
ほんのり朱に染まった耳たぶが
姿を現す。
「俺を一度味わったら、
もう後戻りできなくなる……」
「!!!」
「後悔してもしらないからね…。」
二重瞼の奥で、潤んだ瞳が妖しく揺れる。