第8章 魅惑な美
智が逃走場所に選んだのは、
武井のマンションだった。
「もっと居場所を知られなような
ホテルとかの方がいいんじゃないんですか?」
「それは、無理だよ…。」
「何でですか?」
「だって……翔以外とホテルに泊まるなんて
絶対にイヤだから……。」
「ハハハ…結構ハッキリを言ってくれますね~」
と、拗ねてる武井のマンションは
智の部屋と同じようなワンルームだった。
だから、個室という意味では大差はないと
思うのだが…。
「意外だよなぁ~
けっこうきれいにしてるんだね。」
と、智は部屋の中を探って回る。
「智さん……恥ずかしいですよ。
そんなに見ないで下さいよ~……。」
「ふふ…人となりを知るには部屋を見るのが
一番いいんだよ。
それとも何か?エロいモノか………
隠し事でもしなきゃいけない
何かがあるってこと?」
「エロいって……
中学生じゃないんですから…
そんなものはないですけど……。」
ブツブツ言いながらも武井は
智の後をついて回っていた。
智の足が、デスクの前で止まる。
体育教師のわりに、
何やらレポートらしきものが乗っている。
「何これ……?
生徒に配るプリント?」
「えっ?それですか。
俺が顧問している野球部の部員に
配ろうと思って。
それぞれの強化ポイントをまとめた
トレーニングメニューなんですよ。」
「一人一人の作ってるんだ……。
すごいなぁ~大変じゃないの?」
「まぁ…大変だけど…
でも、やっぱり目指せ甲子園ですよ!!!」
「五十嵐学園って、あれだけ頭脳明晰、
スポーツ万能で勘のいい連中が
揃っているのに……
絵だけは幼稚園児並みの絵しか
描けないんよなぁ~………」