第7章 雲隠れ
「ああ……ホント腹が立つ!!
そうやって智さんにすがられて、
ついつい嬉しくなって
もう1日……
もう1日………って、鼻の下を伸ばしながら
引き延ばしているバカな親父の顔が目に
浮かぶようだよ!!」
温和な雅紀も少々呆れ気味だった。
ブンと首を振って頭から不快な想像を
追い払うと雅紀は自分の父親がしたことに
対して翔に頭を下げた、詫びを入れた。
「とにかく今から家の方へ行こう。
俺も日本にいればもっと早く気づけたんだよ。
オーストラリアから予定を切り上げて
ついさっき空港についたばかりだったんだ………
ホントにゴメン………。」
「雅紀………
俺達の為わざわざ帰って来てくれたのか?」
「だって…智さんが目茶苦茶な泣き言を
国際電話を使って何回も掛けてきたんだよ。
もう、これは電話で話すより
帰ってきた方が手っ取り早いかなぁ~
って、思っただけだよ。」
と、車に乗り込もうとする雅紀だったが
秘書が車の向こうに隠れるようにして
携帯で誰かと話をしているのを見て、
おやと眉根を寄せた。
「ねぇ~何をこそこそしているの?」
ビクリと、らしくもなく慌てた様子で振り返る。
「その………智さんですが………」
気のせいかなぁ~………
こめかみに冷や汗が見えるような
気がするんだけど………
「どうしたの?あまり不快な報告は
聞きたくないんだけど………」
「………………実は………
今連絡が入りまして…
どうやら逃走されたようです………………」
「………………」
「………………」
一瞬………
雅紀と翔は黙ったまま顔を見合わせた………。
それからおもむろに秘書に向き直る
「と…逃走…………?」