第7章 雲隠れ
「はい。逃走中です!!」
「…………ハンター?……」
「雅紀様……それは違います!!
ここ3~4日、例の武井とかいう体育教師が
智さんに逢わせろと、
しつこく通って来ておりまして……
どうやら、あの男に連れ出されたようです。」
「連れ出されたって……
あの屋敷から、誰の目にも触れずに外に
出ることは不可能だよ。
どんなに運動神経がいい智さんだって
体操の選手じゃないんだから…
三㍍の塀は越えられないよ。
もしかしたら、
まだ敷地内にいるんじゃないの?」
「そ、それが、ちょうど庭師が入って
おりまして……」
「庭師…?」
「お茶をしている間に、脚立が消えたと…」
「脚立…?」
「はい…広げれば三㍍ほどの高さまで
伸びるそうです。
その脚立を使えば智さんなら簡単に塀を
乗り越えることは可能かと……」
「…………」
あまりに呆れすぎて声を失ってしまった
雅紀だったが、
怒りに震えた翔の手が雅紀の胸ぐらを
わしずかみにした。
「おい!!雅紀!!!!
おまえ~!!智に何かあったら、
どう落とし前つけてくれるんだよ!!!」
「翔先輩……落ち着いてよ……
それじゃ堅気の人みたいだよ………」
「うるせぇ~!!
マジで何かあったら……ぶっ殴るからなぁ~!!」
般若のごとき鬼気迫る表情を前に
さすがの雅紀も肝を冷やす。
(翔先輩……それって、八つ当たりって
言うんですけど………)
と、思いはするが、口にはしない。
実際、色恋に狂った男ほどやっかいな者は
いない。
わざわざ、夏休みの楽しい旅行を
切り上げて帰国してあげたのに………
いわれのない暴力を振るわれたのでは
あまりにわりが合わなすぎる。
そんな酷い夏休みの思い出はないだろう。
神妙な態度の下で、
いつか必ず親父や大野のバカ兄貴二人に
相応の仕返しをしてやらないと……
と、雅紀には珍しい事だが、復讐を考えていた。