第7章 雲隠れ
もちろん、秘書の冷静沈着を取り柄の男の
らしくもない緊張を見抜けない雅紀じゃ
なかった。
「カズさんは、潤さんと侑李君を連れて
新婚旅行だって?」
「そのようです。」
「だから…智さんはウチに転がり込んだって
訳なんだね………。」
「はい。」
「なのに、どうしてなのかなぁ~。
翔先輩は、智さんを怒らせたまま迎えにも
来なくてー
連絡すらしてこないなんてーーー。
それってー…変だと思わない?」
「………変…と言いますと…」
雅紀は、さっきまでのニコニコの笑顔が
一気に冷ややかな表情に変わった。
「ねぇ~俺のバカンスを邪魔にした
バカは誰だ!!!!」
「………え………」
「誤魔化せると思っていないよね………
だいたい、カズさんのところがダメなら、
ウチしか智さんの行き場はないってことは、
誰だって知ってる。
なのにだ、あのバカが付くほど
真面目な翔先輩が、
ケンカ別れした智さんに連絡一つよこさない
なんてそんなことがあると思う?」
ヒヤリと、秘書の額に冷たい汗が伝う。
「あるとしたら…
裏で誰かが二人を擦れ違うように画策
しているとしか思えない。
翔先輩なら智さんが見つかるまで
探し続けるはずなんだよ。
それなのに、
未だに姿を見せないってことは…
智さんがウチではなく他の場所にいるように
翔先輩に思い込ませているヤツがいるって
ことだよねーー。」
(ああ……、もう無理だ……
これ以上誤魔化したら俺の首が
危なくなる……。)
「ウチのバカ親父だろ?」
(ず………図星だぁぁぁ~!!!!!)
もちろん、そんな秘書の心の叫びなど
雅紀には聞こえるはずがないが、
返事のないのは認めた証拠なのだ。