第7章 雲隠れ
智が必死の脱出劇を計っている頃ーーーーー
相葉勝久の秘書は、国際空港のターミナルビルに
降り立って来る雅紀を出迎えていた。
ひと夏をオーストラリアで過す予定だった
雅紀から突然帰国するとの一報が入ったのが
昨日のことだった。
長丁場のフライトを終えて
少々疲れ気味ではあっがそれでも、
元気に手を振りながら出できた。
「お帰りなさいませ。
夏いっぱい向こうでお過ごしの予定では
なかったのですか?」
迎えの車の中で、雅紀の突然の帰国の
理由を汲んでいた。
「はぁ~…誰のせいだと思う?」
と、雅紀は視線も向けずに訊き返してきた。
(ヤバイ……完全にバレてる?)
秘書は顔色こそ変えなかったものの
心の中で息を呑んだ。
「なんか不都合でもございましたか?」
「…俺だって、もっとオーストラリアを
満喫したかったなぁ~
なのにさぁ~心配の種ができたんだよ。」
「心配の種?」
「智さんだよ。」
「智さんはこちらに………。」
「電話がね、掛かってくるんだよ。
それも、毎日時差も考えずに、
こっちが寝てようと、
食事してようがかまわずにね………
国際電話で携帯にもホテルにも
かかってきたんだよ。
智さんから………。」
と、温和な雅紀が少々忌まわしげに吐き捨てた。
秘書はこれは珍しい………と、思う。
「それがさぁ~何事かと思えば………、
『翔が連絡をくれない。
逢いに来ない。
やっぱりあの幼馴染みに
引き留められているんだ………
俺よりサッカーが大事なんだ………
俺は捨てられた………』
って、メソメソ………ベソベソ………
の繰り返しなんだよ。」
「ふっふふ…それは、ご愁傷様で……」
と、健気に頭をたれながらも
秘書はもうドキドキもんだった。