第7章 雲隠れ
「すごいなぁ~…」
「俺、高校時代体操の選手だったて、
言いませんでしたか?」
「ええっ~?」
「だから、そういう賭けはやめた方がいいって
言ったのに………」
「お前なぁ…それ早く言えよぉ~」
と、言ったところで後の祭。
智の前に立つているのは、
これがあのおちゃらけたヤツだったかと
目を疑うほど、自信満々の笑みを浮かべた
武井の姿だった。
「さぁ~奪いにきましたよ。」
そう言って、智の腕を取る。
「逃げましょう。」
瞬間、ドックンと胸が震えた。
「………あ………」
俺が聞きたかった言葉……。
して欲しかった行動………。
でも、それはこの男じゃない。
何故……?
何故、俺を奪いに来たのは翔じゃないのか?
この腕を掴んでいるのは、翔じゃない………。
覚えのない感触。
翔よりわずかに冷たい手のひら。
この手では、自分の心は燃えては
こないのだと…
わかっていたはずなのに、
でもどんなに待っても、
待っても、待つても、
欲しい男が手に入らないのなら
もう何でもいいや………。
誰でもいいかぁ………。
その虚しさを一瞬でも忘れさせてくれるのなら
「ああ、逃げよう………!」
心に決めると、智は顔を上げた。
自分を閉じこめていた居心地のいい檻の向こうに
空はどこまでも広がっていた。