第7章 雲隠れ
たぶん、最高の愛人になれたはず…。
不倫で男の愛人っていう、
最低の地位ではあるが………。
だから、すがれなかった………。
イヤだった。
自分か二番になるのは………。
男として、男に抱かれる者は、
それが最後のプライドだった。
たからこそ、誰かの下に置かれるのは
堪えられない………
死んでもイヤなのだ!!!!
もしも、今折れてしまったら、過去の苦しみは
全部無駄になってしまう。
ゲイだという理由で踏みにじられるたびに
惨めで、逃げたしてしまいたくなる心を
残されたプライドでねじ伏せて、
凛とした姿勢とともに対決してきたのだ。
決して怯まないと。
自分に牙をむく者にはその報いを…。
負け犬にはならないと。
似た顔を持った和也の為にも
みっともない姿だけはさらさないと。
そうやって必死に保ってきた人生のすべてを
否定されてしまう。
だから、自分から逢いにいったりしない。
迎えに来るのなら翔でなければダメなのだ。
そんなちっぽけな意地の張り合いに
嫌気がさして翔が本当に自分への興味が
なくなってしまったっても…。
それで何もかも終わりになって
しまったとしても……
それでいいと、大野智は思う。
「なんだ……。
せっかく取り入るチャンスだと思ったのに、
こんな檻があったら、抱き締めて
慰めてやることもできないじゃないかー」
と、武井は残念そうに声を出すと
智は3㍍もある柵を見上げる。
「…出てってもいいよ………。」
と、少々ヤケクソ気味に言い捨てた。
「え…?ホントですか?」
「でも、門からは出られない。
叔父は、俺をここから出すなって
警備員に命じてるんだ。
もしも出られても、たぶん尾行がつく………。」
「はぁ~…何それぇ………。」
「そのへん、叔父は抜け目がないから………。
俺が悲しみに耐えられなくて、誰にも告げずに
どこか遠くの世界行くんじゃないかって、
心配しているのかもね………。」
「そんなの変ですよ………
それじゃ本物の檻じゃないですか?」
「そうさ………。」