第7章 雲隠れ
「大野先生そんな冷たいこと言わないで
くださいよ~…」
武井は情けない声を出すと
柵の間からバタバタと両手を伸ばしてくる。
そんな指先がギリギリ触れない場所に立っている
智がハッキリと言った。
「ごめん。お前の気持ちは少しは解るよ。
でも、俺は死んだって、自分からあいつに
逢いに行ったりしない!
今回逢えない状況を作ったのは向こう
なんだから翔が動くのが当然だと俺は思う。」
「………う~ん……」
「もう、いい加減に諦めなよ…。」
「大野先生…………
それって期待とか、不安が入り混じるって
いるってだけじゃなくて………
自分のプライドもあるじゃないんですか?」
「………え?」
「ていうか‥そんなプライドなんて
意味ないんじゃないんですか?」
「プライドか…
そうだなぉ…でも、男同士の恋愛に
プライドを取ったら何が残るんだ?」
クスッと、智は自嘲の笑みを漏らす。
「意地もメンツもなくなって…
年下の男に女々しくすがることしか
できなくなったら大野智の、
どこに魅力を感じてくれる?」
「大野先生………」
「お前に何が解るんだよ!!」
確かにそれは、つまらない意地なのかも
しれない。
逢いにいけば、翔は喜んで抱き締めて
くれるかも………。
翔が、サッカーを優先しても、
友人を優先しても、
家族を優先しても……
そのたびに心の広い恋人のフリをして
笑って折れてやれば、
翔は絶対に自分を捨てることはないだろう。
でも、それだったら今までの自分は
何だったのだろう。
過去に四回の失恋のたびに、
心で悔し涙を流しながら
それでも、顔は笑って別れてやったのに………。
でも…もしも、自ら折れて
『女を選んでもいいから、
結婚した後も時々付き合って』って…
『愛人になってくれればいいから』と望めば、
きっとほとんどの男が首を縦に振っただろう。
それほど、どの男達も智に未練を持ちながらも
別れていったのだから…