第7章 雲隠れ
寂しいさに打ちひしがれている時
それとは対極をなすロマンも陰りもない
超お気楽男の声が静けさを破って
響きわたってきた。
「大野先生ぇぇぇーーーーっ!」
今日もお元気な声は、武井壮だった。
「なんで、どーでもいい奴は来るんだよ………」
うんざりと呟き、智は塀の方を振り返る。
武井は、動物園のおサルさん?みたいに
柵に捕まって歓声を上げていた。
これでもう4日連ちゃん………。
それにしても、こんなやつでも智の場所を
見つけられるのに………
どうして翔は姿を見せないのだろう………
と、結局思考はまた、そこに戻ってしまうのだ。
智は、屋敷の周りを囲む高さ三メートルもある
柵に歩み寄って、武井のそばに行く。
「何で………来るの?」
「えー冷たいなぁ~…。
もうちょっと優しい言葉が欲しいんです
けど………」
「知らないよ!
だって…俺が待っているのはお前じゃないもん……」
「そんなこと言わないでくださいよ。
ねぇ~せめて警備員のお兄さんに、
俺は同僚の教師だから入れても大丈夫だって
言ってくれませんか?」
「それは無理だよ。
ここをどこだと思っている?
相葉勝久の屋敷だよ。
書斎にかかっている絵一枚が
何億の世界なんだぞ…」
「マジな話ですか?」
「ああ、アポなしで簡単に入れるところじゃ
ないんだよ。
この屋敷は………はぁ~…」
もちろん、智が口を利けば簡単には
入れるのだが…
そんなことしたら、また調子に乗って
智に付き纏うだけだから………
そんなお優しいことはしない。
「まったく…何度来てもダメなものは
ダメなんだよ。」
ホントにバカな男だと思う………。