第6章 姑息な悪だくみ
「智、言ってごらん。
君のためなら、何でもしてあげるよ」
勝久の言葉に、智はいらないと首を振る。
「俺が欲しいものはお金じゃ買えない
から……。」
「そんなこといわないでくれよ。
智だけなんだよ、私に甘えてくれるのは……
君の天使の笑顔を取り戻してくれるなら、
私は何でもするよ」
「…………」
一人息子の雅紀は、父親なんかに甘えることは
人生において何の得にはならないと、
甘えることは決してしない。
同じ甥っ子の和也も、独立独歩を決め
身内を頼ったりしない。
必然的に、勝久に甘えるのは
智だけになってしまうのだ。
智は、勝久の『天使の笑顔』の言葉に
懐かしさを覚えていた。
確かに、昔はそう言われたこともあった。
でも、もうずっと心から笑ったことなんか
無いような気がする。
口元に浮かぶのは、どこか苦しさを
伴った笑みだけだった。
「俺、もう25歳なんだよ。
十分わかっているよ。世の中には、笑顔だけじゃ
どうしようもならないこともあるって………」
「智は自分の感情に正直だから……
友人のためとか、和也の為とか言っても
実は、自分がそうしたいからしているだけ
なんだろ?」
「……そうかもね………」
呟きながら、今日何度目かの長い長いため息が
智の口からこぼれ落ちる。
「でも……、俺、今回だけは、
真剣に相手のためにって考えてるの
かもしれない……」
翔の夢…。
翔の家族………。
翔の友人達………。
真っ当な道を歩みさえすれば
翔がこれから得られるものは幸せの数々だと
思う。
それに引き替え、智が翔にあげられるものと
言えば頑固な恋人だけ………。
それも、中傷や迫害というオマケつきなのだ。
「もう、無理だよ……」