第1章 新たな始まり
卒業式で翔と智が演じた
ハプニングを雅紀は、
生徒会が卒業式を
盛り上げるために計画したことだと
言って、教師や父兄達を強引に
納得させてしまったのだ。
さらに言えば、
智は美術教師として、
五十嵐学園の校長に推薦したのも
雅紀だった。
言葉巧みに大人を操ることができる
従兄弟のおかげで、
智は呑気に教師の座に就いて
いられるわけなのだが…
翔は、サッカーで鍛えた鋭い観察眼で
何もかもお見通しのようだ。
「責任問題なんてなるわけないだろう。
智さんには、山ほどの寄付金を
贈ってくれるお前の親父が
ついてるんだから…」
「ウチのバカな父親が、
智さんを猫っ可愛がりしていることを
計算してだったんだ。」
「さあね。俺は自分のやりたいことを
しているだけだよ。」
「翔先輩……
あなたも食えない人だね。」
と雅紀は肩をすくめる。
雅紀をしても、
仏頂面を取り戻した翔の表情から
ホンネを見抜くのは至難の業のようだ。
「とにかく忠告はしたからね。
俺は色々と忙しいから、
智さんの尻拭いばかり
していられないんだよ。」
「雅紀大丈夫だ!
この人の尻のことは、
俺に委せてくれ!」
瞬間、智のゲンコツが
翔の頭に炸裂した。
「いったぁ~い…。
何するんだよ~?」
「変なことばかり言ってるなっ!!」
「どこが変なことだよ!!!
たとえ、従兄弟だって、
先生の尻を見たりしたら……
俺……
ぶちキレちゃうよ…………。」
「だ…誰が見せるかっ!!!!!!」
「じゃあ、見せるのは俺だけ?」
「そ…そんなこと訊くなっ!!!
雅紀がいるんだぞ…」
と、再び視線をドアの方に向けた
智だったが、すでにそこには雅紀の姿は
影も形もなくなっていた。