第1章 新たな始まり
まぁ…家柄もよく
日本でも五本の指に入るぐらいの
大企業の御曹司ともなれば
仕方がないのかも…
「智さん……
一応まだクラブで残っている
生徒もいるんだよね。
せめて最低限のマナーとして
カーテンを閉めて鍵を
掛けることぐらい忘れないでくれる?
向かいの校舎の屋上から
全部覗けちゃうって知ってた?」
「あっ…………!?」
翔の姿しか目に入ってなかった智は、
今さらながら開け放たれた
カーテンに気づいて
カァァァァァーーーーッ!
と見事なほど真っ赤なタコに
なってしまった。
「おっ…おおおお、お前
か…鍵くらい締めろよぉ~」
ムチャクチャ焦りまくって
グイグイと翔の自分から
遠ざけようとする。
美術室があるのは、
他の校舎から渡り廊下で
隔絶している
実習棟と呼ばれる三階。
春休みを間近にしたこの時期、
雅紀のようによけいな
お世話がないかぎり
足を運ぶものなどいるはずもないが…
やっぱり、丸見えなのは
問題だった。
が、翔は、顔色一つ変えず
お邪魔虫の雅紀を横目で睨んでいた。
「せめてあと30分、
待って欲しかったなぁ~」
「翔先輩それはダメだよ!
30分待ったら、
前の校舎の屋上に
生徒が鈴なりになっちゃうよ。
五十嵐の野次馬どもの好奇心を
侮っちゃいけないよ!」
「フンっ!相変わらず
大野先生は大人気ってことか…
まぁ…ご忠告には感謝します。」
「いえいえ、どういたしまして…。
先輩、先日は卒業式を
大いに盛り上げていただき、
もう感謝しきれませんよ」
痴話げんかと言うには程遠い、
一触即発の緊張感が
二人の間に漂っていた。
しばらくの間、
沈黙が部屋を支配していたが
結局、我慢できなくなったのは
やっぱり雅紀の方だった。
「まぁ一応、生徒会が仕組んだことに
しておいたけど…
下手すると、智さんの責任問題に
なりかねないんだからね。
だから、せめて本番だけは慎重に…
お願いだよ!」