第5章 窮鼠猫を嚙む
「へぇ~。俺が悪かったってわけなんだね。」
「そうじゃないって…。ただ……」
「ただ…、何…?」
「ただ…もう少し言葉を選んで
ほしかったんだよ。」
何だよ、それー!!!
と、智の頭は沸点向かって確実に
上昇していく感情を必死で抑えていた……。
冗談じゃないぞー…
俺は、過去に四回の失恋に耐えた強者だから?
自覚なきホモには気を遣ってやれって?
翔はそう言いたい訳なのか?
それが、自分から恋人を狙っている
ヤツだったとしても…
俺は大人だから…
『伊野尾君いいかなぁ…
君の翔に対する感情は、
君がわざわざ俺に向かって忠告してくれことと
同じなんだよ。
翔にとっては、男同士の恋愛はハイリスクで
しかないんだよ……。
だから、俺と一緒に陰ひなたになって、
これからも、翔を見守って行こう……。』
とか言って、手と手を取って優しく教え、
涙を流しながら諭してやらなきゃ
ならないのか……?
失恋の経験もあるから……
世間から白い目にもなれているから……
ゲイの先輩として、同じ性癖を持ってるヤツを
守ってあげないといけないわけ?
たかが1~2度逢っただけなのに
それも翔と別れることを目的にして
近づいてきたヤツに、
初心者だからって手取り足取り教えてあげないと
いけないってこと?
ふざけんじゃないよっ!!!
「俺に謝れって!!
言いすぎました…
ごめんなさい…って、
頭を下げろっていいたいんだ!!」
「……智……」
「たかがあれしきのことでショックで
寝込むほど弱い方にはちっとも
見えなかったから……
無礼な言葉を浴びせかけて
本当にすいませんでした。
とでも言えばいいわけ?
ついでに、完治するまで翔を貸してあげますよ…
って、懐の広いところでもみせてやれば、
さぞや伊野尾はしてやったりと
思うんだろうよ。」
「智っ……!」