第5章 窮鼠猫を嚙む
何が心理的だものだよ!
精神的なもので40度の熱が出るほどの
ショックを受けたのなら、
まず、誰にも逢いたくなくなるだろ…
急いで家に帰って、
部屋に引きこもるんじゃないのか?
でも、それを本気で信じてる翔も翔だよ。
たから、ヘタレって言われるんだよ!!!
伊野尾は、智の攻撃を逆手にとって
キズついたフリをしているだけなんだって……。
「……智ゴメン。
とにかく、俺はこれから、岡田キャプテンの家に
行ってくるから……」
と、言い出したのには、もう驚きも通り越して
呆れるばかりだった。
「はぁ~…何言ってるんだよ。」
「だって、俺が原因なんだから、
ほっとくわけにはいかないだろ?
伊野尾の話聞いてやらないと……」
「原因はあいつなんだぞ!
あいつがよけいなことをしなければ、
俺だってあれこれ責めたりはしなかったんだ。
完全に自業自得だろう。
ほっとけばいいんだって!!!」
「そんなわけにはいかないって…
解ってよ智……。
岡田キャプテンだって俺に事情を
聞きたいって言ってるんだから……」
「あっそっ!!バッカみたい!!
勝手にすればいいじゃん。」
と、智はそっぽを向く。
いったん拗ねた智は、簡単には折れない。
翔の方だって、いきなり練習中に
呼び出されたあげく、
ここまで大人げない態度をとられると、
我慢の限界を超えて苛立ってしまう。
「あのさー、もしも伊野尾が、
ホントに俺に対して恋愛感情みたいなものを
持ってたとしても…
智だって真性ゲイだって主張してるんだから
少しはヤツの気持ちとか
理解できるんじゃないの?
もう少し寛大な心で考えて
やれたんじゃないの?」
翔のその言葉は、まるで言い訳のない子供を
相手にしているような響きだった。