第5章 窮鼠猫を嚙む
翔は前置きもないまま、
「少し前に、キャプテンから携帯へ
連絡が入って…」
と、言い出した。
「キャプテン?オレ?」
「何でだよ!!
サッカー部の岡田キャプテンに
決まってるだろ!!」
「あっゴメン…で、それがなんだって…?」
「伊野尾が、倒れたって…」
「は……?」
「伊野尾が、キャプテンの家を
訪ねていったらしいんだけど…
そこで、真っ青な顔して、
玄関でぶっ倒れたって………」
ゆっくりと智の顔が不快な色に染まっていく。
「どうやら、智に逢ってから、
とんでもないことをした事に、気がついて、
キャプテンに謝りに家へいったらしくて………
でも、そのまま倒れちゃったみたいなんだ…
キャプテンの話じゃ、
なんか熱が40度近くあるって………。」
「さっき逢った時には、散々俺を罵れるほど
ピンピンしてたれど………」
「だから、伊野尾は、身体が弱いんだって
言ったよなぁ……」
「仮病!」
「え?」
「そんなの仮病に決まってるだろ!」
「そんなわけないって、伊野尾じゃなくて
岡田キャプテンが言ってるんだから………。
検温して、病院に連れて行こうか
迷ってるくらいだって…。」
「ふん…。だったら、病院でも、どこでも
連れていけばいいだろ?
素人判断ほど怖いものはないんだよ。」
「そうだけど、本人が病院だけはイヤだって…
言ってるみたいなんだよ。
昔から散々検査とか採血とかされた時のことを
想い出して、よけいに具合が
悪くなるからって………。」
「………………」
何だそれは?………………。
『呆れて物も言えない』って、
まさにこういう時に使うんだろうなぁ〜