第5章 窮鼠猫を嚙む
「ほら、話しなよ。大切な幼馴染みの翔だよ。
ちゃんと、確認した方がいいよ。
さっき、俺に言ったことが
サッカー部の考えだって…
もう一度翔に伝えてあげて…。」
イヤがる伊野尾の耳にスマホを押し当てる。
「さぁー遠慮しないで話しなよ…。」
だが、伊野尾は言えるはずがない。
だった一言、同情を誘うような哀れぽい声で
「ご…ごめんなさいーー!」
と、それだけ言うと、
スマホを放り出して、
逃げ去ってしまった。
それを落ちる寸前でキャッチすると
智は翔に問いかける。
「聞こえた?ウソじゃなかっただろ?」
『え?…何?今のマジに伊野尾?』
「他に誰だと思うんだよ。
まぁ…逃げちゃったけどねー。」
『…………』
「翔君?俺がどんなに辛い思いをしたか、
わかってくれるかなぁ~?」
『………ああ…』
「17時だよ。それ以上は待たないよ。」
それだけ言うと、翔の答えは聞かないで
智は携帯から耳を外して
「待ってるからね!」
と、だけ言うと画面をタップして
切ってしまった。
「大野先生…ずいぶん酷い事をやりますね…。
逃げた彼にしてみたら、
かなりキツイ事じゃないんですか⁇」
と、ハラハラしながら成り行きを
見守っていた武井がボソリと呟いた。
「俺は、ライバルには遠慮しないんだよ。
女の子なら未だしも男には容赦はしない。」
「はぁ…解らなくはないですけど…
それにしても…」
「何だよ…?」
「やっぱり、そばにいられないって、
色々障害が出でくるもんなんじゃないんですか?
櫻井ってプロになるんでしよう?
だったら…この先だって同じようなヤツは
ゴロゴロ現れますよ。
その度に、今みたいに追い払うんですか?
そんなの大変ですよ。
大野先生、そんな相手とこの先も
ホントに上手くやっていけるんですか?」