第5章 窮鼠猫を嚙む
もしも、本当そうであれば、
容赦する必要は尚のことなくなる。
と、智は再び臨戦態勢に入る。
「何度も言うけど、君に俺を責める、
権利がどこにあるの?」
「俺は……、だから…
幼馴染みとして……
心配してるだげで……………。」
「たかが幼馴染みのお前に翔を
心配する権利があるなら、
俺は恋人として
翔に心配してもらう権利がある。」
「………え?……」
「たとえば、そうだなぁ……
よけいなお世話を焼く幼馴染みに
理不尽な言葉を投げつけられて、
それが不愉快極まりないことを翔に
訴えるぐらいの権利はあるってことだよ!
なぁ~!!」
キッパリ宣戦布告をすると
スマホを取り出して、
翔の番号をタップした。
たぶん今頃、プロに混じって練習に
励んでいるだろう翔に苦情を訴えるためだった。
ここまで、きたら翔がどこにいようが
何をしてようが、どうでもいいと思えてしまう。
それぐらい、智はの怒りはMaxになり
噴火寸前…いや、すでに噴火していて
正しい判断力もできなくなってしまっていた。
だから、こうして練習中でもお構いなしに
連絡ができる。
そして、翔は確実に電話に出る。
なぜなら、翔の着信音は
『アンパンマンのマーチ』
だから、鳴り続ければ誰かが気づいて
翔に教えてくれる。
べつに翔が愛と正義と勇気が
好きなわけではない。
これなら恥ずかしくてすぐに電話に
出でくれるだろうと、智が選んだ曲だった。
「…え?…いったい何にして……………?」
訝る伊野尾を気にもとめず、
智は呼び出し音を聞き続ける。
それが十数回をすぎた頃
息を切ったような翔の声が飛び出した。