第13章 魔王の平生 ~中編~誕生記念 【織田信長】
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無事、大名の謀反を事前に取り押さえ城に帰還した信長様たち一行。
それからも公務で忙しくする日々が続き、流石の信長様にも疲労の色が見えていた。
「こう毎日毎日・・・謁見が続くとかなわんな」
謁見の合間、ほんの少しの時間で茶をすする信長様。
「信長様のお誕生日をお祝いしたいという大名が後を耐えませんからね。
それだけ、信長様にお力があるという事の現れでしょう。」
次の謁見者の目録確認をしながら秀吉が答える。
「___最近、莉乃はどうしておる?」
「莉乃ですか!?
針子の仕事が忙しいようです。
夏に向けて、着物の仕立て注文が立て込む時期ですから。
昨日も遅くまで針子部屋にこもっていたようですよ。」
「…そうか。」
目録から目を上げて、信長様の様子を伺う。
どこか遠くを眺めるその様子は、疲れの他にも何か思案しているようだった。
お仕えして何年にもなるが、公務の最中に女のことを気にしたことなど今まで一度もなかった。
「信長様…お疲れのところこのようなお話で申し訳ないのですが、来週のお誕生日当日にも謁見の予定が入っています。
どうしてもその日でないと、という強い希望でして…」
「…分かった」
___大名の謁見を受けるのも、この地を治め天下統一するのに必要な公務。
そう言い聞かせて、信長は愛しい想い人の笑顔を意識から遠ざけた。
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__信長、誕生日当日
針子の仕事が忙しいという理由で、昨晩は天主にも戻らなかった莉乃。
寝顔を眺めるだけで過ごしてきたこの数週間。
寝込みに手を出そうとしたこともあったが、針子の仕事が立て込んでいるという莉乃をできるだけ休ませてやりたいと、
己の欲はこらえてきた。
誕生日がめでたいと思ったことはないが、こんな日にも謁見が続くと思うと少々気が滅入る。
毎度同じ前口上を聞かされ、祝辞を述べられる時間を思うと、ため息が出た。
「おはようございます、信長様。大名が謁見の間でお待ちです。」
光秀が呼びに来た。
「分かった。」
重い足取りを威厳の羽織で隠し、大名が待つ間へ向かった。