第12章 魔王の平生~前編~誕生記念【織田信長】R18
目が覚めると、また私一人だった。
あぁ、またやっちゃった…
信長様を待つ間、縫い物をしていて…そこから記憶がない。
そして今褥にいるということは、また信長様が運んでくださったのだろう。
隣に残る、ほんのりとした温かさをそっと撫でる。
触れたいのは、本人そのものなのに…
毎晩隣で寝てはいるものの、意識のある時間に会う事は無くなっていた。
最後に信長様に触れたのは…もう3週間以上も前になる。
その後、忙しさがどんどん増してゆき、天主にお戻りになるのは夜がだいぶ更けてからという日々になった。
私は頑張って起きていようとするものの、お針子の仕事も立て込んでいて疲れており、昨晩のようにいつのまにか寝落ちてしまっていた。
信長様が何時頃に戻ってきているのかも分からない。
信長様は天下統一を目指すお方。
並大抵の仕事の量ではないのは分かってる。
とてもとてもお忙しいのも。
頭では分かってはいても…
「はぁ… 会いたいな」
こみ上げてくる寂しさを胸に閉じ込める。
天主に差し込む陽を受けて……今日も長い一日が始まった。
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___安土城 書庫
「おう、莉乃」
書庫で本を探していた所に秀吉さんが入ってきて、私の頭をくしゃりと撫でる。
「あ、秀吉さん、お疲れ様~!
あれ?今日は信長様と一緒じゃないの?」
「あぁ、今はな。
今信長様は大名と会われていて、光秀が同席している。
俺はその間に次の軍議の準備だ。」
「そっか、相変わらず忙しそうだね。体、壊さないでね。」
「ありがとよ。
信長様は俺以上にお忙しいからな、俺なんてまだまだだ。
体を心配するなら信長様だが…今日も視察で遠方へ出るしな。」
秀吉さんがおや?という目で見てくる。
「なんだ、話せてないのか??」
「う、うん… 最近、全然お会い出来てない。」
「あー、そうか。天主にお戻りになるのもだいぶ遅いもんな…
先の台風で隣国へと繋ぐ橋が崩落したろ?
その橋が再建設されてな。 その視察に向かわれるんだ。
お戻りは3日後になる。」