第12章 魔王の平生~前編~誕生記念【織田信長】R18
「信長様、おはようございます、秀吉です。
お迎えに上がりました」
障子の外から声がかかる。
…あぁ、もうそんな時間か。
つい今しがた床についたと思ったが…
「___わかった、すぐに行く。」
隣ですやすやと寝息を立てる莉乃の頬をそっと撫で、
起こさないように褥から出た。
___最初で最後の、そして生涯唯一の…
俺が愛する女、莉乃
最近は公務が忙しく莉乃とゆっくり話すことは疎か、
顔を見るのは寝顔だけ、という毎日だった。
昨晩も天主に戻った時、、、
莉乃は俺の着物を繕っている途中だったのか、着物を握ったまま柱に寄りかかって寝ていた。
きっと俺を待ちながら、だったのだろう。
愛らしい奴だ。
俺が褥に運んでやり、莉乃を抱き暖かさを感じながら今朝まで少しの仮眠を取ったところだった。
「本日のご予定です。
先日傘下に入った大名が謁見を申し出ております。
その後、政宗が北に送っておりました斥候からの報告をお聞きください。
また、城下で問題となっておりました連続盗難の件は光秀より報告させます。
こちらに、先日の内紛の事後報告をまとめたものがありますので、お目通しをなさってください。
昼餉の後、未の刻から謁見がもう一件、その後は先日崩落した橋の再建設が終わりまして、その視察に向かいます。
城に戻るのは3日後かと。」
「そうか…今日も慌ただしいな。」
もう何年もこのような毎日だった。
戦がない時には、城下だけでなく傘下の国の発展や人々の暮らし、農作物の出来高、貿易にも目を配る。
天下統一を成し遂げるまでは、止まることはできない。
ただ一つ、変わったこと。
莉乃がこの世に現れてからは…
天下統一と同じくらい莉乃の存在が大切になっていた。
むしろ、莉乃の存在があるからこそ、世の平安をより強く意識するようになったかもしれない。
視察、か。
この三日はあやつの隣では寝れんのか…
小さくため息をつく。
登り始めた陽の眩しさに目を細める……
天下統一に向けて今日も走り始めた。
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