第9章 紺青の享楽 ~前編~ 【伊達政宗】
「まだ悩んでるの」
背後から家康の声がしてぎくりとする。
「きゃっ! いつからいたの!?」
「あんたが入ってくる前から。
書庫をため息場所にするの、いいかげんやめてくれる」
「ご、ごめんなさい・・・」
しょぼんとしてしまう。 そんなに漏れていたとは…
「で…悩みは解決したの?
まぁ、あんたの顔見ればうまくいってないの丸分かりだけど」
「そんなに顔に出てる??」
「はぁ?あんた自覚ないの? ばかだね、ほんと。」
そう言ってふっと笑う家康。
「…嫌われたくないの」
「…」
「私はこの時代の人間じゃないから…
だから、自分の感情出して、ぶつかっていくのがこの時代の女性として…
武将の彼女としてふさわしくない気がして。」
なぜか、不安な気持ちが口から出てしまった。
政宗にも言えないのに。
「…」
家康は私が吐き出すのを黙って聞いてくれている。
「本当はもっと、自分らしく付き合いたい。
私からも、もっと表現したいの」
「……あんたが本能寺で信長様助けた日から、俺たちはあんたが感情丸出しの人間だって分かってる。
それに、あんたから話を聞いて500年後が今と全然違うってことも。
政宗さんはそんなあんたに惚れたんだから、今更変わろうとする方が、政宗さんへの裏切りになるんじゃないの」
「・・・」
今度は私が黙る番だった。
「あんたのその気持ち、話す相手間違えてる。
政宗さん、あんたに本気みたいだよ。それだけは言っとく」
「そう…分かった、家康、聞いてくれてありがとう。」
ぶっきらぼうな家康だから、話せたのかもしれない。
そして、冷たいと思えるような対応が、逆に私を冷静にしてくれた。
少し微笑んで、書庫を後にした。
向かうのは政宗の御殿。
本音でぶつかろう、そして受け止めてもらおう。
最愛の彼に。
____ 自分らしく付き合いたい、か。
俺なら…そのままの莉乃受け止めるけど。
出せるはずのない感情をぽつりと呟いて、また書物に目を落とす家康だった。