第1章 真紅の彼方 ~前編~ 【織田信長】
___答えに気づいてしまい、思わず口元を押さえる。
私が
『どなたかのために、その方が喜んで着て下さる着物を縫いたいと思っています。』
と言ったからだ。
自ら、『どなたか』になるために。
不器用な優しさに・・・
その想いに・・・ 今頃気がついてしまった。
何万人もの人の生活を支えながら、さらに町を作り、城を築き、戦い、
そして・・・沢山の人の命を奪ってきた。
魔王と恐れられても、寝ずに仕事をし、また戦いへと赴く。
日ノ本の先を見て。泰平の世を築くために。
誰でもない、誰かの為に。
信長様は今までも、そしてこれからもそうして生きていくのだろう。
家康が言ってたっけ、、、
「居場所を作るため」だって。
この世界に私の居場所が出来て、その根が張ってきたことに私は気づいてなかった。
信長様が着物を依頼し続けてくれたからだ。
私がこの世で生きる糧を、術を身につけさせてくれたのだと、今、改めて思い知った。
___民の、そして私の生きていく居場所を作り続けている貴方の居場所は?
広く絢爛豪華な天主の間を見渡す。
ここはとても・・・冷えているように感じた。