第9章 紺青の享楽 ~前編~ 【伊達政宗】
「きゃっ!!!
なんで家康がここにいるの? いつからいたの? 今の話聞いてた!?」
「本読んでたから。光秀さんより前から。 聞いてた。」
光秀さんが可笑しそうに笑っている。
「あんたがぼーっとしながら、はあはあため息ばっかりつくから…
呼吸器系の病気かと思ったんだけど。心配して損した」
恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
「くっっ、お前は本当に… 飽きのこない娘だな」
笑いすぎて少し涙目になっている光秀さん。
「ちょ、ちょっと光秀さん! 話してみろと仰ったのは光秀さんの方ですよ!」
ムッとして言い返す。
「あぁ、そうだったな、悪い悪い。
質問は 『この時代の女性は男性に対して受身なのか』だったな。
そもそもお前はこの時代の娘じゃないのだから、気にしても仕方ない事だろう?
それとも、この時代の女になりきりたいのか?」
「それが…わからないんです。
どのように振る舞えば正解なのか、が。」
「立ち振る舞いについて、か。
せっかくだから、家康の意見も聞いてみたらどうだ」
「俺に振らないでくださいよ…」
「事故とは言え家康も聞いてしまったのだから、何か言ってやれ」
「……そのままのあんたでいればいいんじゃないの。
それが良くて、政宗さんもあんたを好きになったんだろうし。
だいたい…あんたは男の言うこと素直に聞いて付いていく性格じゃないでしょ。
勝てない戦はしない、これ兵法の基本だから」
二人の話を聞いて、はっとした。
目からウロコだった。
私はこの時代の女性像に囚われ過ぎていたのかもしれない。
「お二人共、ありがとうございました!
なんだか、答えのしっぽが掴めた気がします!!
今をときめく戦国武将に恋バナできると思っていませんでした!」
私はそう言うと、二人に頭を下げて書庫を出た。
私らしく振舞う、元の私に戻る勇気が少し湧いてきた。