第7章 淡藤の深謀 ~前編~ 【石田三成】
「えぇ、莉乃様のお顔を拝見したら、そのようだと思っていましたよ。
師として誇らしい気持ちになりました。」
さっきの暗い表情はすっかり消えて、いつもの天使スマイルに戻っていた。
「私ね、三成くんに何かお礼をしたいと思ってるの。
大したものは贈れないけど…何か欲しいものない?」
三成くんは紫色の目を何度かパチパチとすると、目線を下げた。
「欲しいもの、ですか…」
「うんうん。」
「…先ほど、莉乃様は『悩み事を聞く』とおっしゃってくださいましたね。
それをお願いしても良いでしょうか?」
「やっぱり、悩んでることがあったんだね…
私で役立てるか分からないけど、できるだけ力になりたいと思ってるよ。
それで、悩みって??」
「今、ここでは…
いつ誰が入ってくるやもしれません。
わたくしの御殿でお話を聞いてくださいませんか?」
「もちろん!」
___そうして、三成の悩みを聞くために、御殿へと向かったのだった。
(三成Side) ___三成の御殿 自室
「莉乃様、先日、先の世のお話を聞かせて下さいましたね。
今の世は全く逆でして…
ご存知の通り、この時代ではお慕いしてる方と添い遂げることはありません。
わたくしが祝詞を挙げるとすれば、それは信長様か秀吉様からの令、のようなもの。
織田軍のために、縁を繋ぐためです…
……実は今、お慕いしている方がいるのです。
その方との仲をより深いものへと進ませたいと思っています。
もしもその方と結ばれたとしても…
いづれその方は別の方の元へと参らねばならぬでしょう。
たとえ一度きりの関係だとしても、私はその方と深く結ばれたい。
その一度があれば…
わたしはその思い出を胸に、一生を過ごして行ける気がするのです。
莉乃様にご相談、というのは…
お恥ずかしながら、わたくしの女性経験と言えば遊郭でのみ。
こちらが何もせずとも…事が終わって、その場限りの関係です。
女性の体の事など、全く分かりません。
…私に情事の指南をして頂きたいのです。」