第7章 淡藤の深謀 ~前編~ 【石田三成】
莉乃様を自室にお送りし、戻ってきて…
ぼんやりと考える。
莉乃様は以前『元いた世に帰りたい』と言っていた。
それはそうでしょうね…
話を聞けば聞くほど、今の世より住みやすそうですから。
莉乃様は聡明で快活な方だ。
今のこの世に窮屈な感情を抱いていたとしてもおかしくはない。
しかし、莉乃様が本当に帰る日が来てしまったら…
それを考えただけで、冷静でいられない気持ちが沸き上がってくる。
何か、とても大きなものを失ってしまうような…
首を振り、邪念を振り払う。
___今、わたくしが莉乃様にしてさしあげられることは、指南役としてしっかりと勉強をみること。
莉乃様の愛らしい笑顔を意識の奥に閉じ込め、明日の授業の準備をするのだった。
_______________________
数日後。
「おう、莉乃!三成の指導はどうだ?」
三成くんの自室へと向かう廊下で秀吉さんとばったり一緒になった。
「とても親切に教えてくれてるよ。
しかも、教え方もすごく上手でね。
おかげで詳しくなってきてる、まるでこの時代に生まれ育ったみたいに」
そう言って冗談めかしてにやりと笑って見せる。
「そうか、偉いぞ。それ聞いて安心した。しっかり学べよ」
大きな手で頭をくしゃりと撫でられた。
_________________
その様子を見てしまった三成。
(莉乃様は秀吉様が頭を撫でられると、気持ちよさそうな笑顔をされる…
あんなに簡単に触れることができて…)
三成の気持ちに複雑な炎が灯り始めた。
________________