第7章 淡藤の深謀 ~前編~ 【石田三成】
戦がなく平和な世の中…
これはまさに、今信長様が成されようとしている『天下統一』その先の未来だった。
その世を作るために、私も一生お仕えする覚悟でいる。
特に感銘を受けたのが、『見合い』ではなく好いた者同士が祝詞をあげるという事。
親や主が決めた結婚ではないらしい。
男性は側室を持たず、一生をその愛する一人と添い遂げる…
お家のためにと子供を持つことを強いられる事もなく、妻は仕事を持ち、夫に意見もするらしい。
なんと自由で豊かなのだろう。
聞くことすべてが目新しく、聞き入るように莉乃様に話の先を乞うてしまった。
日が傾き始め、部屋に刺す陽の色が変わってきた頃…
「あ、もうこんな時間に!
莉乃様、申し訳ございません。 夢中になって話を聞いてしまいました。
先の世は…住み心地がよろしいのですね」
そういうと、莉乃様は思いがけない一言を発してくださった。
夕日に照らされた美しい笑顔と共に。
「ありがとう」
「何がでしょうか??」
「三成くんたちが、その礎(いしずえ)を築いてくれたんだよ。
だから私たちが自由に安全に暮らせてたの」
…衝撃でしばらく何も言えなかった。
信長様が天下統一をなされることに疑いの余地はない。
しかし、それが続くのか?
決して知ることのできない先の世を莉乃様は知っている。
今、そのことに感謝を述べられた。
私たちの行く末が間違っていないこと、それを証明してくださったのだ。
胸がいっぱいになり…
なぜだかこの目の前にいる美しい人を、感謝の気持ちで抱きしめたくて仕方なかった。
「莉乃様、なんと申し上げて良いのか…
お礼を言うのはこちらの方です…
そうだ!明日からは、もっとこの世の勉強をしましょう!
私たちが何を目的とし、何をしているのか…
莉乃様にもっとよく知っていただきたいのです!」
「はい!明日からもよろしくお願いします!」
そういって、また愛らしい笑顔を向けてくださった。