第6章 白銀の堕罪 【明智光秀】R18
_____数刻前。
私の乗馬の指南役として、馬の扱いから乗り方まで教えてくれていた光秀さんと何度目かの遠乗りに出かけた先でのこと。
「なかなかに上達したな。」
そういって弟子の手綱さばきに満足そうに目を細め、馬の歩みを緩め併走してくれる光秀さん。
陽を受け…綺麗だった。
男の人に「綺麗」なんて表現は違うかもしれないけど。
すっきりとした顎のラインに荒れのない肌、艶やかな銀髪、切れ長の色っぽい目…
揺れる馬上でも芯が通り伸びた背筋、着物の袖から見えるすらりと伸びた腕。
そのミステリアスな姿に見惚れてしまう。
「なんだ?その目は。子犬か?」
「なっ、なんですか、子犬って!!」
「分かった分かった」
『お前の考えていることなど丸わかりだ』と言わんばかりに流し目でちらりと見て、正面に目線を移す。
その些細な仕草ですら、計算し尽くされたように整っていてクラクラした。
しばらくすると、休憩地点である湖のほとりに到着した。
乗り始めの頃は…体は痛いは足はガクガクするは、とてもじゃないけど乗馬なんて無理だと思っていた。
しかし、半ばスパルタとも言える指導のおかげでここまで上達し、さらに…
弟子以上の関係になっていた。
___と思ってるのは私だけで…
私が一方的に想いを伝え、光秀さんからはのらりくらりとかわされ、返事をもらっていない、
そんな曖昧な関係だった。
会えばからかわれるのは変わらず、一緒に城下の茶屋へ行ったこともある。
それだけ、だった。
私の気持ちだけ膨らんでいる気がして、次第に苦しさとむなしさを感じるようにもなっていた…
馬たちは美味しそうに草を食んでいる。
光秀さんと私は湖から吹く少し涼しい風を受けながら、隣に座っていた。
「これでもうお前も一人でどこまでも行けるな」
「行けるかもしれませんけど、行きません。」
「ほう…?どうしてだ。 500年後に帰りたいのだろう?そのために本能寺に行くのではなかったのか?」
私は何も答えず、ただ、光秀さんの瞳を見つめた。
(帰れるわけがない。その理由、分かってるくせに…)
「バカ娘」
そう言って私の頭をポンポンとなでた。