第38章 水色桔梗 ~2020誕生記念~ 【明智光秀】
顔を上げ、光秀さんを見上げる。
絶対に違う。別人だ。
頭ではそう分かってるのに・・・
先輩とそっくりな顎のラインを見てしまい、心臓が激しく音を立てていた。
光秀さんもまた私を見下ろしていて、お互いの視線が交差する。
お互いの目に、お互いが映っていた。
それ以外は何も、見えていなかった。
「先輩なら・・・
恋仲の相手が泣いた後は、どうしてくれると思いますか?」
光秀さんの瞳がほんの一瞬だけ揺らぐ。
次の瞬間にはゆっくりと顔が近づいてきて、私の唇にそっと押し当てられた。
反射的に開いてしまったその場所に、暖かく湿った舌が入り込んでくる。
お互いの舌先が触れ合うと、すぐに口内から出て行ってしまった。
そして唇が軽く合わさるだけのキスを落とすと、近くにあった顔がすっと離れていく。
決して強引ではなかったのに、全く抗(あがら)えなかった。
自分に抗う気が起きたのかさえ、よくわからない。
逆に・・・
思わず名残惜しいと思ってしまった自分に驚いてしまうが、その心情を光秀さんにも読み取られてしまった事の方が、恥ずかしかった。
光秀 「今度こそ戻るぞ。皆が心配して騒ぎ出す頃だ。
・・・その顔はしまっておけ、バカ娘。」
腰を支えられながら立たされた私は羽織をかけられ、広間へと向かう。
数歩先を歩く光秀さんの背中を追いながら、そのシルエットが先輩に重なって融合されるような不思議な感覚と、まだ鳴りやまない心臓のドキドキに、私は戸惑っていた。
初めて触れたのに、どこか懐かしかったその体温にも。